プーリーシステムって?
プーリーシステムとは、ロープとプーリー(滑車)を使い歩行用ラインのテンションを確保する仕組みです。
普通売られている15mスラックラインキットではラチェットバックルを利用しますが、ラチェットでは数十センチしかラインを巻きとって引けません。しかしプーリーシステムを使えばメートル単位でラインを引くことが出来ます。これにより、より長いラインでも歩行テンションを確保することが出来ます。
30m以上のライン張る場合はプーリーセットが大活躍。
リギングシステムや倍力システム、メカニカルアドバンテージなどと言われたりしますがこれらはプーリーシステムのことです。レスキューの引き上げシステムとも根本理屈は同じ。
以下、なるべく細かいことを省いつもりの話を展開することになりますのでその点ご了承ください。
例えば、倍力システムを作って0.5kNで引いたら論理的にはリアルにどの程度までの力が発揮できるかが計算できます。
めざせロープマスター。
基本の理屈
長いロープを折り返してより軽い力でラインを引くことが可能ですが、この理屈は中学生の理科で出てきた定滑車や動滑車を基本としています。仕事量とかそういうやつです。
力の大きさはkNを使います。
kNについては以下のように考えます。
厳密には
1kg × 9.81m/s^2 = 9.81Nという式でkgとkNは表せますが、大まかに重力加速度を10として計算します。
10kN = 1t = 1000kg
1000N = 1kN
これだけ覚えておきましょう
例えば、カラビナは最小破断強度MBSは22kNが多いので2200㎏です。
メインテンショニングシステム
ロープをプーリーにより折り返して締めこんでいくのですが、その回数を増やすことでより軽くできますし、道具にかかる負荷を軽減することも可能です。
特にブレーキに対する負荷を軽減できることは大きな利点です。
スラックラインの場合はダブルプーリー2個、ブレーキ1個が最も普及しているレイアウトで、5:1システムといわれています。この部分がメインテンショニングシステムとなります。ラインを引いた後も、テンションを保持するために何らかのブレーキとなる道具が使われます。
プーリー部分の折り返しは4回で、起点からブレーキまで5本のロープが合わさってテンション保持に関わります。これはメインラインのテンションを5分割することです。このことは同時に5分の1の力でメインラインを引けるという事でもあり、メインラインを1m引くにはロープは5m引かなければならないことを意味します。
単に引くだけならブレーキは必要なくて、もしこれがなくても5:1システムです。つまり、ブレーキは倍数には関係ありません。ブレーキがない場合は引いている人間そのものがメインラインの5分の1のテンションを受け持つことになります。
つーか、人間が保持とか関係ないじゃん?それに意味があるの?と思われるかもしれませんが、意味はあります。サブテンショニングシステムでロープを引いてテンションを増やす&保持する行為がそれに当たりますので。
サブテンショニングシステムでロープを引く
メインテンショニングシステムは組み込まれたブレーキによりテンションを保持することが一番の仕事です。
これだけでも倍力システムといえますが、機能的には不完全です。
サブテンショニングシステムを構築してロープを強引にブレーキに入れ込んでテンションを確保します。
倍力システムの肝です。より効率よいシステムとなるのでレスキューなどで倍力システムといえばこれが組み合わされています。
*メインだけのサブテンショニングシステムが無いシステムであっても倍力システムです。メインの場合はラインロッカー部分が起点であり、サブはアッセンダーが起点となります。
ロープにアッセンダーなどのロープクランプを取り付けてロープを掴み、さらにプーリーを接続してロープを引きます。プーリーを一つ使うと、5:1システムの場合は15:1システムに変身します。一気に、3倍はデカいです。この行為はリギングともいわれますが、英語ではメカニカルアドバンテージ(倍力システム)やマルチプライヤー(乗算)とも言われます。
次に、マルチプライヤーの理屈を説明します。
※スラックラインの場合はサブテンショニングシステムはテンションを得るためだけの機構ですので、テンションを確保したら取り外します。
マルチプライヤーになる理屈
なぜ、ロープを掴んでプーリーを接続して引くと掛け算になるのでしょうか?単にロープの折り返しを増やすだけでは4倍、5倍、6倍となるだけだけなのに。
その答えはズバリ、ロープを掴んだ箇所からプーリーシステムが分断されるからという理由です。
5:1システムを3:1システムで引っ張っているということになります。メインテンショニングシステムでは倍率に関係なかったブレーキはサブテンショニングシステムの一部になると、プーリーに早変わりします。計算する際はブレーキということは忘れてください。
ロープを掴んだロープクランプ(アッセンダーなどの道具)を起点として折り返し2回で、3:1システムがそこにあることになります。その3:1システムが5:1システムのロープの末端を引っ張っているので、15:1になるのです。そして引くロープの量は15倍になります。
これは望遠鏡の対物レンズと接眼レンズの関係にも似ています。5倍のレンズと3倍のレンズを組み合わせて焦点を調節すればれば15倍に物が拡大されて見える(でも暗くなる)のですが、プーリーシステムのマルチプライヤーも同じことです。レンズでは拡大できる代わりに暗くなりますが、プーリーシステムの場合は軽い力で大きな力が得られる代わりに引くロープの量が多くなります。
マルチプライヤーをうまく使えば少ないプーリーで省スペースなシステムも組めます。
もう少し詳しく
ロープを掴む道具であるロープクランプはアッセンダーの類が使われます。
がっちり棘などで挟んで滑りません。この部分にカラビナとプーリーをつけてロープを引きます。さらにプーリーを追加したり、アッセンダーを追加することもできます。
メインのロープの末端をロープを掴んだ部分からのサブで引くということになるのですが、その瞬間はブレーキのカム(ロープをロックする部分)が開いてロープが動くようになります。
具体的な例で手元で引く力を1とした場合、ロープ編
1の力で引くと、サブテンショニングシステムのロープは1でそれが3本でロープクランプ部分を引くことになり、メイン部分のロープは3の力で引かれていることになる。そしてそのロープは全部で5本なのでメインラインは15で引かれている。
具体的な例で手元で引く力を1とした場合、道具編
手元で1で引いた場合、最初のプーリーに2、その部分のカラビナに2、ブレーキも2、アッセンダーには3(これがメインロープにかかる力)。
後ろのダブルプーリはロープが4本だから計12。
ブレーキを接続したカラビナは2。
後ろのダブルプーリーを接続したカラビナは12。合わせて14となり青いリギングプレート部分には14がかかる。
前のダブルプーリーはロープ4本で計12だがロープの起点(バケット部分)にも3がかかるので計15。
ラインロッカーやメインラインは15。
おやおや、ラインは15なのにアンカーであるリギングプレートは14で力が釣り合ってない?と思ったあなたは頭が冴えている。この14に引いている人の1を加えて15としなければならない。そして、手を放すとブレーキがロープをロックする。その瞬間、ブレーキにメインロープの3がかかり、こちらのアンカーも15となり、両方のアンカーで力が釣り合う。
問題1
これは15:1システムにプーリーを一つ追加したレイアウトです。
何倍力になるでしょう?
問題2
これはアッセンダー部分にダブルプーリーを追加したレイアウトです。
何倍力になるでしょう?
答えはエントリーの下の方にあります。
ブレーキの摩擦について
勘違いされている場合もありますが、ロープクランプで掴んでロープを緩ませることでブレーキの摩擦が回避されるから何倍も軽い力でロープが引けるわけではありません。ブレーキ部分はプーリーシステム一番大事なところではありますが、力の計算をする際はその機能は不必要なんです(繰り返しですけど)。あくまで、メイン部分のロープ末端を別システムで引くから軽くなります。
ブレーキ部分ではカムが開いていても強い摩擦が発生します。グリグリやエディ、IDなどのブレーキの場合はロープの径などにもよりますが、およそ50%の摩擦が発生しています。
この場合は、アッセンダー部分を2と0.5(ブレーキ効率50%)で引く計算になり、実際にはトータル83%の2.5の力でロープを引くことになります。すると15:1システムは実際には約12:1相当の効率になります。残りの17%は摩擦熱となって消えます。
さらには各プーリー部分も摩擦があるのでさらに効率は低下します。実際に触ったら熱くなっているときもあります。
15:1システムを一人で0.5kN(約50㎏相当)の力で引いたとすると、7.5kN(750kg)相当のテンションで張れるはずなんですがブレーキの摩擦を考慮すると6.225kN(約623kg)相当のテンションが確保可能ということが割り出せます。
(5×3)×0.5×0.83=6.225
6.225kNくらいの強さは50mのラインだと、歩くには頃合いのテンション量に相当します。20mトリックラインならまずまずのガチ張りでバウンストリックはできるよって感じ。
※画像ではペツルのグリグリを使っていますが、強いテンションではあまり使わない方が良いです。壊れた例がいくつかあり、お勧めしません。新規に買う場合はエディにしましょう。
※トラクションプーリーやMPDを使う場合はプーリーが組み込まれているのであまり摩擦は発生しません。
他に大事な事
メインラインを何m引いたかとか、ラインがどの程度伸びたなどの数値や感覚も大事です。
特に実用的なのはプーリー区間の長さを把握すること。手間だけどラインの伸び率を測るのもお勧め。
まとめ
プーリーシステムの倍率はテンション保持に関わるロープの本数とマルチプライヤー部分の本数で決まります。ブレーキはプーリーとして数えます。
倍数などは詳しく知らなくてもプーリーシステムは扱えます。レイアウトして張るだけなら見様見真似でも張れます。緩めのテンションならあっけなく張れちゃうもんです。
このような計算や理屈は必要なくて経験の方が大事という人もいるでしょう。実際にこういう数字は何の役に立たないと考える人もいるようです。
そういう人にとってはプーリー何個で何人で何分かかって何mをこのくらいのテンションに張ったという話になります。これはこれで貴重な経験です。
確かに重要度で言えば、経験その他の方が上でしょうね。
ですが、怖いのは経験からの意味不明な思い込みや決めつけです。
何から何まであれこれを全て説明したり理解するのは難しいですから、結局は経験と知識を共に高めるってことですね。理屈が理解できれば必要な道具も見えてくるので余計な物も買う必要が無くなります。
買い物も含めてあれこれ考えながら張るのも楽しんでみて下さい。
問題の答え
- 1の答え:15倍力。方向を変えるだけの意味のないプーリーの追加だから。方向を変えるだけの行為をリダイレクトといいます。プーリー側のアンカーには16の力がかかりますが、メインテンショニングのロープは3と変わらない。歩行ラインは15。残りの1が引いている人です。逆方向のマルチプライヤーを使用した場合リダイレクト扱いの部分が発生して計算が少し変わってくる場合があります。
- 2の答え:答え:25倍。アッセンダー部分は5で引いているから。
倍力システムに関するQ&A
- Q倍力システムって何?
- A
ロープとプーリーを使い、手元で引く力を2倍や3倍などにして引くロープワークです。2倍はプーリー無しでも、多くの場面で使われます。
- Q倍力の計算方法は?
- A
倍の力で引くときは引くロープの量も倍になっています。力が集まった点を何本のロープで引いているか数えますが、システムを組み合わせると3×3=9倍と増えていきます。