プーリーとは?
プーリーとは滑車のことです。
これを使えば人間の力を何倍にもすることができます。
通常なら人間は超がんばっても自分の体重くらいの物体しか持ち上げられません。
しかしプーリーをうまく使えば、車でさえ浮かせられる。
倍力システムといいますが、ロープをプーリーで折り返すことで3倍とか15倍とかできます。プーリーが1つしかない場合でも、効果の一番高い場所に使えば劇的に作業効率が上がるかもしれない。そんな道具。
使い方は今回は紹介しませんが、プーリーの種類やスペックなどについて紹介していきます。
主な使用目的
- リギング(ホーリング)–折り返して吊り上げたり、張ったり。倍力システム。スラックラインを張るのもこれ。
- ディビエーション(リダイレクト)–ロープの方向を変えたり、流れやすくする。
- スライド移動–張ったロープの上を移動。チロリアンブリッジ。
ここで紹介するプーリーはロープ用です。鉄製ケーブルなどでは使用禁止。
プーリーの種類
大雑把に分けてシングルプーリー、ダブルプーリー、タンデムプーリーなどがあります。
シングルやダブルは大きさも様々なものがあります。
- シングルプーリー--最もシンプルなプーリー。スイング式のプレートが多い。
- ダブルプーリー--プーリーが二つ繋がっている。リギング用。
- タンデムプーリー--ロープ上をスライド移動するためのプーリー
- パッシングプーリー--結び目なども通過できる大型
- セルフジャミングプーリー--ブレーキとなる器具でロープが一方にしか流れない
- スイベルプーリー--スイベルがついて捻じれない
- カラビナ型プーリー--カラビナと一体型
大きさ順にならべる
左から1インチ、2インチ、2と3/8インチ、3インチ。
プーリーの本体部分であるシーブ(ロープが直接当たる箇所)の大きさで分類されます。これらは代表的なサイズでこれ以外の中間やび妙に違うサイズもあります。
上の画像では1インチだけがシングルで他はダブルプーリです。
大きいほど効率が良く、パワーロスが少ない。当然ながら大きくなると重くなります。
折り返しが多い場合は効率がいいプーリーを使いたい。
もっと小さくて安いマイクロというタイプもありますが、マルチプライヤーで引くような場合にはロスが多くて向いていません。キーキー五月蠅い。
プーリーの表記、性能
プーリーの名称
シングルプーリーの各部名称
- アタッチメントホール--メインとなる接続地点
- サイドプレート--スライドできるプレート
- シーブ--ロープが接する滑車本体(アルミが多い)
- アクスル--車軸
- ベアリング--シーブに組み合わされた回転時に摩擦を低減する軸受け
ダブルプーリーの各部名称
- センタープレート--真ん中のプレート
- ベケット--センタープレートにあるアタッチメントホール。ロープの起点とできる。
破断強度MBSはサイドプレートに印刷されている
破断強度MBSとはMinimum Breaking Strength(ミニマムブレイキングストレングス)です。
勘違いしている人が多いのですが耐えるではなく、壊れる数値ということに注意が必要です。kNという単位は力の大きさを表す単位で静荷重なら42kNは重さ換算で約4.2トンになります。
プーリーならその性質上、ロープの部分にはすべて同じ力がかかり、合計がプーリーそのものにかかります。ダブルプーリーでロープに6kNかかる場合は6×4で24kNがプーリーそのものにかかる力となります。真ん中のベケットをロープ起点にした場合は、5本のロープになるので30kNです。シングルで1kNで引けばプーリーには2kNかかります。
ロープの太さも記載されており対応範囲はプーリーのモデルで違います。7mmから16mm位までです。
太いロープは強度が高いですが、細い方が良く流れます。あまりに細いロープを利用すると滑車とプレートの間に挟まってしまう場合があります。
kNとは力の単位です。キロニュートンと読みます。
運用強度(WLL)
プーリーには運用強度(WLL)は記載されていませんが、サイトには記載されている場合があります。メーカーの取扱説明書を見てみると破断強度の20%とか40%と書かれていました。プーリーの場合は正常にプーリーが回転するという意味も含まれていると思われます。
例えば運用強度が破断の20%なら、MBS42kNの場合はWLL8.6kNという数値になります。
ちなみに、ベアリングは大きな力がかかっても効率は落ちにくいですが、ブッシングだと極端に回りにくくなります。
ベアリングとブッシング
画像はブッシングプーリーでブレーキ付きのスラックライン用SBプーリー。ある一定テンションまで引くと急に固くなる。
クライミング用やレスキュー用はほとんどベアリングが入っています。レスキュー用でも小さいのや安いのは入っていない。
高価なものはシールドタイプでぬれても平気。でも、いずれのタイプも塩水は避けた方がいいと思う。
安いのや小さいのはブッシングというタイプがあります。滑車(シーブ)にボルトが刺さっているだけ。力が大きくなると固くなり音が出ます。潤滑油やグリスで多少ましになります。ペツルの一部のブッシングプーリーは少しずつグリスが出る自己潤滑式というのもあります。
お勧めは当然ベアリング入りですが、ブッシングタイプは自分で修理したり分解も可能。
コングのブッシングを壊して分解するとこのようになっていました。
アスクルを削って分解したのでこれを組み上げるにはボルト&ナットを使います。ボルトの末端が飛び出るとロープなどを傷つけるので、電動やすり等で削りましょう。
プーリーの相性
プーリーはカラビナとの接続を想定して各アタッチメントホールの大きさが決まっています。
カラビナなら自然と中央にきますが、シャックルのボルトに接続するケースだとがたつきが出る場合があります。
その際はセンタリングチューブ(画像の水色)があると綺麗。
注意が必要なプーリー
サイドプレートがずらせない固定式プーリはカラビナとの相性がシビア。
オーバル型という楕円形のカラビナと組み合わせてください。
クイックリンク(マイヨン)とも相性が悪くほぼ全滅。今ではほとんどサイドプレートタイプですので、特に理由がない限りはこのタイプはお勧めしません。
利点としては滑車部分がもし壊れてもロープが抜けないという安心感でしょうか。ねじれには強いはず。強度というより耐久性なども上と予想できます。
それから、間のスキマを利用してカラビナをかけることができます。工夫次第ではテクニカルな方法も可能です。
セルフジャミングプーリーやブレーキ付きプーリー
ブレーキ付きプーリは通常のプーリーとしても使うことが可能で便利。オレンジ色の二つはペツルのセルフジャミングプーリーです。
青の大きいのはMPD(マルチパーパスデバイス)。ディッセンダー+プーリーの機能を持つ道具。
灰色のはスラックラインブラザーズプーリー。
オレンジ色のペツルの道具はアッセンダーと同じように棘で止めます。青のは挟み込んで止めます(これを緩めてゆっくり送り出せる)。灰色のは棘と挟み込みのハイブリッド。
同じような機能はアッセンダーやプルージックと組み合わて実現も可能です。
ハンドアッセンダーとスライド式サイドプレートの組み合わせ。左に引くと動く、右は動かない。
汎用性高いのがクライミング・レスキュー用品の強み。
アッセンダーと固定式プレートプーリーの組み合わせ。
左は動かない。右に引くと動く。
ブレーキ部分のことを考えるとプーリーを経由して力を少し落とすのでこちらの方がロープにやさしい。
このタイプのプーリーならハンドアッセンダーでも逆さまに接続できるので同じことができる。
しかし、スイング式サイドプレートの場合は上下逆に使うことは不可能。
ベル型はプルージックを巻き込まない
左がベル型(アゴ付き)。右はスイベル付きでアンカーに接続したままロープが通せるイカした構造。
レスキュー用途ならベル型(アゴ付き)がいい。プルージックコードを巻き込みにくい。ロープが岩なども接触しにくい構造です。
ど定番はSMCプーリー。大型は特に。大型はどうせ重くてデカいんだから大したデメリットはありません。
細いロープじゃ機能しませんので11mmくらいの太さが基本でしょう。使う予定があるならロープやプルージックコードと組み合わて事前テストをしておきたいところです。うまく作動しない場合があります。余分に人がいるならひとりはプルージックの結び目担当にするのと安全性がアップします。
タンデムプーリー
ロープの上を移動するときに使います。チロリアンブリッジといわれる谷の間などに張られたロープを移動する際にプーリーが一つだと、沈み込みでロープに角度が付き回りにくくなるのです。プーリーが並んでいるとより軽く回ります。
ワイヤーを滑るジップライン用モデルもあります。
お勧めプーリー
プーリーはワーク系ショップで購入できますが、数が少ないので現実的には通販で購入することになります。登山用品店にはほとんど売ってません。売っていても小さい緊急用などです。
プーリーは各種大きさ等色々あるので、使いたいジャンルに合わせたメーカーで揃えるのがいいでしょう。
例えばペツルはフランスメーカーでケイビング(洞窟探検)用に元来は道具を開発したメイカーです。軽く、小さいのが特徴。プーリー以外にもロープ関連ギアの豊富さは世界一といえるメーカー。SMCやDMMはレスキュー、ワークでの使用事例が多いです。以下大雑把に分類します。
プーリーのメーカー
- クライミング—ペツル・クライミングテクノロジー
- ケイビング—ペツル
- ツリークライミング—ペツル、DMM、CMC、他木登り専用メーカー
- レスキュー—SMC、ロックエキゾチカ、CMC、コング
- ワーク—色々
レスキュー用途
メーカーは実績のSMCもしくは機能のロックエキゾチカのどちらか。
ロックエキゾチカのオムニブロックははスイベル付きでアイテム数が減らせます。つくりも素晴らしく美しいプーリーでベケットにもエッジがないのでロープを直接結べます。サイドプレート開閉はアンカーにつないだまま可能ですが、これが非常に便利。付け替えの最中でも道具を落とすことがありませんし、格段に速いです。
今からレスキュー専用にプーリーをそろえていくならオムニブロックで揃えるたら完璧。一度使えば絶対手放せない。
クライミングに便利なプーリーはペツルのマイクロトラクション
クライミングの本などでもプーリーを紹介しているケースはあまりありません。無駄な道具は持つべきではありませんし、どうしても折り返したいならカラビナを使えばいいし、てな感じでしょうか。
通常のロープクライミングでプーリーを使うというのは荷揚げくらいしか思いつきませんが、不測の事態の場合で負傷者を引き上げる(降ろせない)時に活躍する可能性は大きいです。それからロープ一本で登ったり下りたりをするユーマリング。
クライミングなら軽くて小さいのが適しますね。
もしものためにということでしたら、ペツルのマイクロトラクションが一押し。一方にしか流れないようにロックをかけることが可能です。通常のプーリーのように使えるのはもちろん。アッセンダーのようにも使えます。細いロープでも使えます。
シングルロープにかけて登れるけど落ちない自己確保とすることも可能(使い方正常じゃないけど)。有名クライマーがロープ1本とマイクロトラクションを使いルートを事前に探るという描写を本で読んだことがあります。
ケイビングは泥が大敵
プーリーはケイビングだと竪穴探索で使用します。SRTでの使用や荷揚げ・荷下ろしに使います。注意すべきは泥。信じられないくらい泥だらけになるのが普通。汚れない場所ならベアリング入り、汚れるならシールドベアリング入りか、ブッシングの小型でいいはずです。ブッシングだと水洗いしてスプレーすれば機能回復できますし。ペツルの小型から選べばいいと思います。
スラックライン
メインシステム用は接続可能かどうか注意が必要です。通常のプーリーはカラビナを前提としているのでシャックルが通らない場合があります。
気になるのがシャックルが真ん中に来ない現象。コネクターのカーブ側なら問題ないのですが、ボルト側だとテンションかけた際に傾いてしまいます。
100m以上を張るのならSMCの3インチダブル買いましょう。どうせ後で欲しくなります。一人で張ってるとね・・・。100m以下しか張らないなら3インチは大げさなので、小さいのも検討する価値はアリマス。
いつも仲間がいるならサイズが落ちてもいいけど、それでも強く張るつもりなら、やはりSMC3インチかな。
セルフジャミングプーリーはリリースできないので理屈を理解してから買ってください。
ラインロッカーに直付けも可能な場合がります。これはセンタリングチューブつけています。
その他プーリー
クライミングテクノロジー
コング
さらに特殊なプーリー
怪しい?中華プーリー
中華プーリーの何が怪しいか。
一番の問題は品質管理です。製造段階で明らかに不用品とわかっていても出荷されるケースが考えられます。
性能表記も当てになりません。
でも価格は安い。
命を預けない部分で使うと割り切る場合は使えると思います。例えば、スラックラインの場合はマルチプライヤー部分で使うとか。レビューはどんどん増えているので少しでも安いのが欲しい方は参考にして購入してみてください。
個人的にはどう思う?かというと、中国クライミングメーカーのロープ買ったときに後悔したので買うときは、どうせ変なメーカーだからと割り切って買うと思う。
GMクライミングというメーカーの8mmアクセサリーロープを買ったのですが、変なゴミ巻き込んでるし編み込みも一部飛び出してました。どちらも程度は少しなんだけど、ああいう不良品が出荷されるのは品質チェックされて無いからでしょう。
まとめ
プーリー使うの楽しいですよ。
買い物下手でスラックラインのために買ったプーリーが沢山あります。
一番お気に入りはSMCの3インチダブル。
そして、オムニブロック。
使うのが楽しくなる道具です。大きくて重いのも小さくて軽いのも、それを適材適所で選ぶ作業が楽しいんです。
ロープの太さも含めるとまぁいろいろ悩むもんです。そこで頼りになるのが実績のある定番の組み合わせ。経験者に話を聞くのも盛り上がると思う。あれ欲しいんだけど高くて買えないんだよねって道具もあるはず。
結局のところ。
高い道具は良い。
関連エントリーも是非チェックお願いします。