アレックスオノルドのエルキャピタンフリーソロ挑戦の映画
アレックスオノルドは世界屈指のフリーソロクライマーだ。フリーソロはロープやその他の確保器具を一切使わないクライミングのことである。もちろん落ちたら死ぬ。フリーソロで登るクライマーの数はとても少なく、しかもビックウォールとなると世界中で彼一人くらいしか現存しない。
そんな彼のフリーソロの集大成となるエルキャピタン(作中では略してエルキャップ)と呼ばれている大岩壁のフリーソロの挑戦(2017)を友達のジミー・チン等が撮影して映画としてまとめた作品である。
「僕とロープを組んでください」というのが恥ずかしかったからフリーソロで登り始めたアレックス。もちろん最初は簡単な難易度で登っていたんだけど、次第にフリーソロの魅力に取りつかれて途方もないビックウォールに挑むまでになった彼の魅力がたっぷりの映画です。
説明はこのくらいにして感想を。
地面から垂直に切り立った数百メートルもの高さの岩壁を、非常時の命綱となるロープや安全装置を一切使用することなく、おのれの手と足だけを頼りに登っていく。そんな最もシンプルゆえに美しく、最も危険でもある究極のクライミング・スタイル“フリーソロ”。その驚くべき魅力を、余すところなくカメラに収めたドキュメンタリー映画が誕生した。ナショナル ジオグラフィック ドキュメンタリー フィルムズ製作による映画『フリーソロ』は世界各国で大反響を巻き起こし、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどでドキュメンタリーとしては異例の爆発的ヒットを記録。さらに全世界で45の賞にノミネートされ、本年度アカデミー賞® 長編ドキュメンタリー賞受賞をはじめ、2018トロント国際映画祭観客賞、2019英国アカデミー賞を受賞(共にドキュメンタリー部門)など、 20賞受賞の快挙を成し遂げた。冒頭から目を疑うような光景が続出し、誰もが手に汗を握り、息をのまずにいられない驚異の傑作、その全貌がついに明らかになる。
フリーソロ公式サイトより
『フリーソロ』が描くのは、フリーソロ・クライミング界の若きスーパースター、アレックス・オノルドの途方もなく壮大な夢への挑戦である。世界中を駆けめぐって幾多のビッグウォールを攻略してきた彼が新たなターゲットに定めたのは、カリフォルニア州のヨセミテ国立公園にそびえ立つ約975メートルの断崖絶壁エル・キャピタン。見るからに雄大にして恐ろしいこの巨岩は、東京スカイツリー(634メートル)や世界一の超高層ビルとして名高いドバイのブルジュ・ハリファ(828メートル)以上の高さを誇るうえに、頂上へ向かう途中にいくつもの難所が待ち受け、プロクライマーや登山ファンの間ではロープなしの登攀は絶対不可能と囁かれていた。はたしてアレックスは、いかにしてその難攻不落の絶壁に立ち向かうのか……。
感想
恋人のサンニが恐ろしい
アレックスの恋人がサンニという女性。アレックスのサイン会かなにかで電話番号を渡したのがきっかけだと言う。車上生活はクライミングしていないときは暇でしょうがないだろうから電話してみたという絵が容易に浮かぶ。アレックスはバンでの車上生活が大好きな訳だけど、やっぱり寂しいときはあると思う。そういう時に話相手が欲しいはずだ。
以前のステイシーという彼女も講演会に来てそのあとFacebookの友達申請が来た時にアレックスから連絡して付き合うことになったのである。彼女とはケンカと仲直りを幾度と繰り返して結局別れた。
以前他の作品で「この車に女の子何人も連れ込んでるんでしょ?」の問いに「僕がそう何人も連れ込めるようなルックスをしているしているかい?」と答え、「何人もじゃないなら連れ込んでいるんかい!」と突っ込む隙を与えていたアレックス。
なかなかのプレーボーイではないかアレックスよ。フリーソロで登り始めたのは人に話しかけるのが苦手だったからではなかったのかい~。
映画でサンニは邪魔にならないと評価しており、作中でも一緒にバンに寝泊まりしている。今までの彼女類はバンに寝泊まりするのを嫌がったらしいが、サンニはその様子が映画では感じられない。一度目にエルキャップを引き返した時は、彼が命がけの挑戦をしているにもかかわらず車の中で爆睡していた。その車上生活への適応性と、「心配して眠れなかった~」などのわずらわしさのないドライさがアレックスには合ったのだ。
サンニの性格を端的に表しているのが彼女がスイカを切っているシーンだ。なんと輪切りにしている。レモンじゃないんだぞ!と驚愕した。アレックスは苦笑いしているが、観客としては包丁を持つ彼女は恐ろしく不穏なシーンだ。エルキャップで落ちるのでは・・・と心配になる。
何故心配になるかと言うと、彼女のせいで二度もアレックスは落下して怪我をしているのである。世界の至宝といえるクライマーのアレックスに怪我をさせるとは!と憤慨。一度目2016年、彼女がクライミングのビレイをしていて地面までもう少しというところで、ロープがグリグリ(確保機)からすっぽ抜けてグランドフォール(末端は結び目をつくったり、ロープバックに結ぶなどしましょう)。脊髄と背骨を二カ所圧迫骨折する大けがだった。
その次はエルキャップチャレンジの準備段階でサンニに確保してもらっていたときフリーブラストという序盤の難所で滑落して足首を怪我している。どのような状況だったかを親友のトミー ・ コールドウェルに聞かれても答えていない。理由は何だろう。サンニをかばっているんじゃないかなと思いはするが、どうだろうか?? 彼女といて二回も怪我をして別れようと思ったよと語るアレックス。そりゃそーだろー。
この怪我について二人が話すシーンがある。「アレックスごめんねー」「いや、君のせいじゃによ気にしないで。」みたいなのが聞けるのかと思いながら見ていると、「アレックス、あなたは大丈夫よ!私の心配はしないで!」みたいな感じ。んんん?と何か妙な感じを受けるが、思ってみればこんな性格だからこそアレックスと付き合えるんだろう。
ふたりが新居選びや電化製品を選ぶシーンもあるけど、アレックスは全く興味なさそう。ふたり大丈夫かなと心配になるけど、まぁサンニなら大丈夫。
彼女の存在感が一番発揮されるのが、トライを無事終えての電話のシーンだ。喜びを伝える相手としてアレックスには欠かせない存在だったんだと理解できる。孤独な戦いだからこそ、そのあとの共感相手は必要不可欠なのかもしれない。
サンニ有難う!と映画を見ている方も感謝したい気持ちになる。二人は幸せになってほしい!
アレックスのエルキャップ
エルキャップのフリーソロはハーフドームを2008年に登った時から考えていたはずだ。というのも、何かに取材される度にエルキャップにはいつ登るのと?と聞かれ続けているからである。
エルキャップのフリーライダーを登るにあたって最大の問題はその標高差だったろう。1000m近くの標高差で、31ピッチもある。極限の集中力が求められるフリーソロで31ピッチは人類の誰も経験したことが無く、彼の先輩であるディーンポッターもスポーツの範疇を超えていると語っていた。
アレックスはエルキャップフリーソロのために着々と準備を重ねていた。作中のシーンは無かったが、 マウント・ワトキンスのサウスフェース、エル・キャピタンのフリーライダー、ハーフドームの北西壁レギュラールートを21時間15分で継続登攀するチャレンジも彼は行っている。ヨセミテの三大壁をソロで登り、移動も徒歩と自転車。 通常なら1カ所でも数日かかるのに、3か所を1日で登ったのだ。 このヨセミテトリプルの挑戦は、トレイルランニングとクライミングとウルトラマラソンを組み合わせたようなとんでもない偉業と言えた。体力的にも屈指のクライマーということを証明したのだ。しかも三大壁の90%はフリーソロで登っている。まさに意味が分からないという感じ。人間の限界と物理法則をもてあそびつつ、うまく死から逃れている人間の底知れない可能性を示している。普通のクライマーがこのようなチャレンジをやるかどうか以前に、考え付くだろうか???
このようにアレックスは連続登攀のひとつとしてエルキャップのフリーライダーをすでに90%の区間をフリーソロで攻略していた。残る問題は数カ所ある難所、映画ではボルダープログラムという区間などをスムーズに抜けれるかどうかだ。
この問題の解決のアプローチとして彼は何度も気になる箇所を予行演習している。それでもう安心だと思って準備は整った。残る問題はケガによる足首の状態と、タイミング。
そう、さぁ登るぞ!というタイミングこそがこの挑戦の肝なのだ。実際に彼の著書でエルキャップフリーライダーフリーソロの核心は、「登り始めのその一歩」だろうと語っている。だから映画を見ていて、自分はその一歩の瞬間を見逃すまいと凝視していた。これから見る人も注目してほしい。
まず、最初のチャレンジ。核心のその最初の一歩が、あれなんか重そうという雰囲気を感じた。彼は序盤で引き返した。映画の中では語られていないが、引き返したのはサンニがビレー中に落ちてケガをしたフリーブラストという難所である。あの時を思い出したのは間違いない。やはりアレックスも不安や怖さはあるのだと思わせるシーンではあるが、単に気分が乗らなかったという考え方もできる。
作中でジミーチンはアレックスが中断したのは初めてだと言っているが、それは撮影班がいた場合の話だ。彼には撮影者が誰もいないフリーソロが沢山あるし、引き返すことは選択肢の一つとして常に頭に入れている。ちょとした気分の問題で引き返したことは何度もあると過去に語っている。フリーソロにおいて途中で引き返すクライムダウンができるかどうかは、重要な技術の一つとして彼はとらえている。例えばあのムーブの箇所はクライムダウンできないからここを通過したらもう引き返せないなどの判断だ。通常のクライミングではロープがあるからこのような場面には遭遇しない。フリーソロで登り始めたら何が何でも最後まで登るというのではない。むしろ彼はそういうスタイルは嫌うだろう。
そして二回目のチャレンジ。初めの一歩がなんと軽い事か。玄関を出てふらっと近所に散歩にでも行くような一歩である。これはぜひ見てほしい。薄暗い中の登り始めの最初の一歩を。
撮影チーム
撮影・監督はジミーチンのチーム。彼はナショナルジオグラフィックなどではおなじみの写真家。MERUという優れた映画があるので気になる人はぜひ見るべきだろう。
この映画では撮影班の葛藤も描かれている。
フリーソロを撮っている最中に落ちたら⁉という問題。しかも原因が撮影だとしたら!?という当たり前の問題である。この問題は常にアレックスと撮影班に付きまとっている。誰もが撮ってる目の前で落ちたら?と考えずにはいられないだろう。というのも、知人クライマーの死のニュースは彼らには日常的に入ってくるのだ。過去にアレックスの撮影中に遠征中のクライマー仲間の死亡ニュースが入ってきて撮影チームが意気消沈したなどのケースももあった。
このような葛藤は、今更何?という感じでもあるのだが、今までと違うのはこのチャレンジが計画の一環などではなく、あくまでアレックス自身の挑戦というところだ。今までの再現シーンとか、映像化企画どではない。映画があるから登るんじゃない。
でもアレックスはこれを撮ってほしいと思っている。その理由は語られていないが、何年もかけて準備した集大成として撮ってほしいという思いだったのではないだろうか。そして今までずっと応援してくれた友達であるジミーチンチームへの恩返しという思い。いつのまにかアレックス自身のチャレンジという範疇を超えていたのだ。だからこそ、改めて葛藤があったのだけれども、結論的には最高の仕上がりで答えるとの決意で撮影に臨んだようである。
また、ジミーチンの奥さん( エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ )も監督として映画に関わっている。ジミーチンのこれまでの作品とは少し構成が変わっていたり、サンニや新しく父親の写真が出たりしたのは奥さんの仕事かなと思った。
フリーソロの部分。感情移入が半端ない。
散歩するような軽い一歩で始まったフリーソロチャレンジであるが、いつのまにか緊張感がマックス。シンプルに落ちたら死ぬ。1000mの高さと言えど、スタート直後でも落ちたら死ぬ。ただ、最初は暗さでその恐怖感があまりない。
アレックスが通ると寝ていた鳥が起きる。バサバサと飛び立つ。見ている方はドキッとするが、アレックスは動じない。
そう、静かな山なのだ。そこに早起きの鳥の声も入る。音声が素晴らしい。撮影班は音も大事にしている。ドローンは使わない。ドローンはこの映画のためにあった!などとレビューも読んだが、実際にはドローンは使われていない。だからこそ、驚いた鳥が飛び立つ。最後にこれこそはドローンのような映像シーンのような引きのシーンがあるが、あれはヘリコプターだ。ヘリの先端に特殊で高価なジンバルがついている奴。自然系のドキュメンタリーのメイキングとかで見たこともある人もいるかもしれない。あのシーンはラストにふさわしい圧巻のシーンだが、ヘリだからこそあのスケール感が出せた訳だ。
あからさまなドキドキシーンはアレックスが空手キックというムーブで切り抜ける場面。ここは無人カメラでアレックスの邪魔にならないように撮られていたのだろう。クリアしてからの表情などは無人だからこそと思うが、果たしてどっちだったんだろう?
フリーソロ登攀シーンはラスト20分ほど。まじで見てる方も体に力が入る。映画ということを忘れる。このような経験はなかなか出来ない。これはもう、映画館で見るしかない。最後にはぐったりしてしまう。ショッカー映画のようなわざとらしいショッキングなシーンは無いが、底知れぬ緊張感がある。
登攀の後半は走るようにして壁を登っていく。成功を確信し、表情も笑顔になる。誰でも経験したことであろう、何かをやり遂げたと確信した残りの道中のうれしさや楽しさ、ワクワク感が伝わってくる。見ている方も達成感で包まれる。
まとめ
この映画は公開二日目に見に行きましたが、お客は5人でした。素晴らしい映画だったのに、客が入っておらず残念でした。
公開している映画館も少なくて遠くまで見に行きましたが、わざわざ行った価値はありましたたよ。ぜひ見てアレックスのファンになってください。
アマゾンプライムで300円で見れます。