何気なく使っているアンカースリングの巻き方を名前付きで全力紹介

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slackline.jpを書いている人
歩き方

2009年からスラックライン乗ってます。国内旅程管理主任者、日本山岳ガイド協会公認ガイド(自然Ⅱ登山Ⅲ山岳Ⅰ)、NACS-J自然観察指導員。アウトドア好きでキャンプ、星、植物、お魚好き。
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アンカースリングの回し方(木)紹介

普通スラックラインは木にアンカーを取って張ります。木や柱限定ですが普段やっている回し方を分類してみました。
通常は、ガースヒッチかバスケットという方法でしょうね。
それ+コネクターを使うセッティング。

アンカーとそこに回すスリングというのはスラックラインの設置の中でポイントとなる部分です。アンカーから同メインラインを張るか。
どのスリング使うとか、長さはどうだとか。
もちろん強度も。

それからずり落ちるとか、落ちないとか。緩いテンションでは強度は問題となないけど、歩行でのラインの伸縮や風の振動などでずり上がる場合などもあるので、そのような場合は動かないアンカースリングが便利です。
高テンションラインじゃガースヒッチは心配だね、ロデオラインやサグラインでもアンカー動かないからこの方法がいいとか。

ガースヒッチ

ギボンのスラックラインキット
アンカースリング部分の負荷2倍←Y字荷重によるスリングに対する負荷増加を考慮しない最低数値

多くのスラックラインキットのに採用されている方法。ガースヒッチという名称。
スラックラインキットの場合は歩行ラインがアンカースリングを兼ねるので、シンプル。

これはラウンドスリングでやった場合

ガースヒッチの短所は接点部分が強度低下を起こしてしまうこと(強い力が発生するわけではない)。強度低下は大雑把に-50%と覚えたらよい。幹に回したスリング自体は歩行ラインのテンションより下がるのだが、接点部分は強い力がかかるほど食い込んで強度低下が起こる。歩行ラインの強テンションとそれが分岐する接点からアンカーに回した部分のテンションの差が2倍以上になることで、微小なテンション変化による接点部分の伸縮で極端に劣化を起こす。この現象はテンションが大きいほど差が大きくなり、破断してしまう。状況によっては破断テストをしているようなものである。

ダブルラチェット(ラチェットを二つ使い格段に強いテンションを得る方法)が流行り出した時に、薄いトリック用ラインでのガースヒッチによりアンカー箇所が切れて、接続ラチェットが飛ぶ破断事例が起きた。トリックラインでこの方法を使うことは自殺行為との論調も生まれたほどだ。

スラックラインではラインが伸び縮するので接点で摩耗し傷みやすい。今となっては激しいバウンストリックをするには適さない方法。通常のシングルラチェットで軽くバウンストリックする程度では問題ない。

長所:締めるのでローテンションでもずり落ちにくい。部品点数が少ない。お手軽。
短所:強度が低い。痛む。

ガースヒッチ+1コネクター

テンション量を考えればこのやり方も間違いでなく、問題ない。少し詳しく考えてみる。

手前に伸びる青と赤が歩行ライン。

この場合はラインが1kNだとすると幹に回した部分は半分の0.5kNの負荷になり、カラビナと結び目には0.5kNの負荷となる。カラビナはかろうじてメジャーアクセス方向に引いていることにはなるが、もし幹に押し付けるような形になると曲げる(鯖折り)圧力がカラビナにかかり強度が落ちる。カラビナはY字荷重ではないが、スリングは角度の影響受ける。

せっかくなので更に条件を付けくわえて計算してみる。この場合は角度は90度とすると幹に回した部分のラインや結び目、カラビナは0.71kNがかかる。ラインとカラビナの接点はその二倍の1.42kNが局所的にかかっている。つまり、ラインの歩行部分は1kNで接点だけ1.42kN、幹に回した部分と結び目は0.71kNとなる。この数値の違いがラインの擦れ、摩耗につながり強度が低下する。このように同じウェビングでかかる力が変化するとそこが弱点になる。ガースヒッチはまさにこの点で強度が落ちる。

しかし、その具合を把握できれば想定の範囲内ということで問題が無い訳だ。それからついでに情報だが、ラインを結ぶと強度低下を起こすので結ぶ際はそれも考慮する。少し強いテンションにさらすと癒着して解けなくなる。こうなると切るしかない(一度だけ経験した)。

バスケット(ヒッチ)

ギボン
トリックテンションアンカーキット
アンカースリングの負荷1/2←Y字荷重によるスリングに対する負荷増加を考慮しない最低数値

スリリングとシャックルを使って張る場合はこの方法が採用される。
最上級のトリックラインキットに採用されている方法でもある。

この接続方法の名前は通常意識せず使われているが、正式にはバスケットヒッチもしくはバスケットという名称。吊り下げるケースを想像するとバスケットが思い描ける。


木に回すとスリングを二重にすることほぼ同じことになり、スリングの強度は100%~200%(角度で変化する)の強度となる。

シャックルにはY字荷重がかかので、なるべく強度のあるタイプを使いたいところ。

最低でも120°以下、できれば90°までに。理想は45°くらい。

長所:シンプル。角度を守れば強度も落ちにくい。
短所:Y字荷重に注意。テンションが緩い場合には上や下に動く。

バスケットヒッチ+コネクター

バスケットヒッチ+コネクターでループにしてリギングプレート接続
スリングの負荷1/2。コネクターの負荷1/2。←Y字荷重によるスリングに対する負荷増加を考慮しない最低数値

バスケットヒッチ+コネクターとはバスケットにコネクターを使いループにして、別途シャックルやリギングプレート追加して接続する方法。
ループに使うコネクターは木の幹とは接しないように配置した方が余計な負荷がかからず追加のアンカーポイントとして使える。マスターポイントに縦にコネクターを使うのでリギングプレートかツイストシャックルを使うケースが多い。

この方法を使うとマスターポイントのY字荷重が避けられるのが最大の利点といえる。
リギングプレートを使う場合にも部品点数が減るのでお勧め。

ただし、スリングはY字荷重の影響を受けます

ループにして調整できるスリングだと締めこんでずり落ちないようにすることも可能だが、その際は角度が広くなるので1倍以上の負荷が発生する可能性があり危険。
締めこむタイプのスリングをずり落ちないほど締めこんで、高テンションで引くとかなり危険でラインより先にスリング周りが破断する可能性が高い。ローテンションなら問題ない。

長所:マスターポイントのY字荷重がない。アンカーポイントが一点作れる。
欠点:ローテンションでは上や下に動く。コネクター類の数が増える。通常接続ではコネクターの方向が変わるのでツイストシャックルが必要。

バスケットヒッチ+1ラップ

スリングの負荷1/2。←Y字荷重によるスリングに対する負荷増加を考慮しない最低数値

バスケットヒッチ+1ラップとはバスケットヒッチ+コネクターの一回幹回しバージョン。
幹に回すことでローテンションでも緩んで落ちにくいのが特徴。
まわす回数が多くなったとはいえ、スリングにかかる力はほぼ同じ(諸説あるが。。。)なので、破断強度も同じ。

もちろん、バスケットヒッチ+1ラップ+1コネクターという方法も可能です。

長所:ずり落ちにくい
短所:長いスリングが必要

もっと詳しく知りたい方はITRSの実験結果資料をご覧下さい。


http://itrsonline.org/wordpress/wp-content/uploads/2015/12/Evans_Truebe.Review-of-Webbing-Anchor.slides.pdf

可変スリングによるバスケットヒッチ

強度には劣るが、長さが変えられるスリングがある。ゆるラインでよくやる方法。ロデオにも適している。

力がかかると金属パーツがスリング生地を挟んで緩まない。通常は一重でて使う。便利な反面、金属パーツ部分がウィークポイントとなる。理屈はスリング生地を挟む部分は強テンションになるほど強く挟み込むからだ。もちろん、ループ状のラウンドスリング等と比べて一本物となるのでぱっと見でも強度は劣る。

強いテンションでは本格的にやらない方が良い。調整コネクターを考えると歩行ラインよりも破断強度は低い場合もある。特にやってはいけないのが、一本の可変スリングから複数のラインを張ることである 。

金属パーツで長さを変えられる可変タイプのスタクティビティのツリースリングは角度80°の場合、37kNで破断している。これはラインの破断強度とあまり変わらないのでテンション量を考えながら使いたい。便利な反面強度を犠牲にするのは間違いない。このスリングでも長さがあまれば複数回すなどして強度を上げる方法もある。

実験動画によると角度80%で37kNで破断しているのだが、角度と負荷から逆算すると調整コネクター部分に24.1kNがかかった時点でスリングを切っていることになる。結局のところ調整コネクターが弱点となわけで、仮に120°で実験したとすれば、メインロードとアンカースリングの負荷が等しくなるので歩行ライン側の負荷24.1kNの時に切れるはずである (アルミカラビナと同じ程度) 。

120度なんて広い角度になる?と思う人もいるかもしれないが、調整スリングゆえに太いアンカーでずりな落ちないようにぎちぎちに締めているとあり得る。

計算式:

\[ X = \frac{T}{2cos Y/2} \]
X=アンカースリング負荷
T=ラインのテンション
Y=角度(rad)

関数電卓で計算できるようにかくとこうなる。角度はラジアンに切り替えて入力。

37 ÷ (2 × cos(80°÷ 2)) =24.1

ちなみに、良く使われている紫色のWILL1Tのラウンドスリングは破断は6T(60kN)なのでバスケットヒッチで80°の場合は約91.9 kNで切れる計算となる 。

60 × (2 cos(80° ÷ 2))=91.9

このように便利な反面、可変スリングは強度の劣る面もあるので想定テンションを考慮したうえで回す回数を増やしたり、違う道具を使うなどの対応が求められる。アンカーの破断というのは正しく使えば基本的にはありえないと思われているかもしれないが、それは違う。

歩行時のテンション3kN。もちろん問題なし。正しく使いこなそう。メーカー公表の運用強度は9KNとなっているのでその範囲内で使おう。ハングオーバーリギングならまず問題ないので、問題となるのはプーリーで引く場合や激しいトリックをする場合。

長所:調整できるのでずり落ちない。 便利。
短所: 通常設置ではツイストできるコネクターが必要になる。 また、強いテンションでは調整金具がスリングにダメージを与えることになり、角度によっては歩行ラインより強度が劣る。二重回しで低減できるの。

403 Forbidden

Y字荷重(トリプルアクセス)について

繰り返しになりますが、負荷についてはY字荷重によるスリングに対する負荷増加を考慮しない最低数値です。
1/2となるセッティングも120°にしたらメインロードと同じ数値がアンカースリングにかかるので負荷低減効果はありません。コネクターは3方から引かれるので数字以上に負荷が増えます。

角度スリング倍数マスターポイント

倍数

0.51
20°0.511.02
40°0.531.06
60°0.581.16
80°0.651.3
90°0.711.42
100°0.781.56
120°12
140°1.462.92
160°2.885.76
180°

※接続点であるマスターポイントの倍数はY字荷重による強度低下を考慮していません。実際はさらに負荷が多くなります。

Y字荷重については詳しくはこちら。

角度は大事だよー

45°なら

角度45度の場合。ただしコネクターのクィックリンクはY字荷重となる。

120°の場合

120度だと45°のほぼ倍になり、コネクターに2、スリング両方に1ずつ。つまり、アンカースリングとコネクターにかかる力に二倍の差がある。

素朴な疑問?スリングって捻じれてもいいの?

スリングは捻じれてもいいのか?

答えは1、2回ならok。どこかで見た実験データなどでも急激な強度低下は起きませんでした。ただし、あまりにも強かったり、スリングが痛んでいると、ねじれが影響するはずです。

まとめ

自分が良く使うのは、バスケットバスケット+コネクターです。
ループにするために使うコネクターはスクエアクイックリンクか、オーバルクィックリンクを使うことが多いです。

テンション量と使用スリングの強度や構造によって最適と思われる方法をどうぞ。

それから、他のやり方も有るには有ります。ラウンドスリングでヒッチを作り調整できるやり方とか。それからスリングの種類により傷みやすいや、傷みにくいなどがあります。
使い勝手の良いスリングはついつい使用回数が多くなりますので、あまりにも傷んできたなら廃棄する必要もあります。

‪たった一本の1インチが魔法のアンカーに早変わり!アンカーウェビングリリースの解説‬
アンカーウェビングでリリースするスラックラインをシャックルなどを使って張る場合はアンカーには通常はスリングがつかわれますが、ウェビング(ライン)を結ぶことでアンカーとすることも可能...

スリングとシャックル

スリングはラウンドスリングの紫色が良く使われていますし、安心感もあってお勧めです。運用荷重(WLL)1tタイプがいいでしょう。JIS規格でWLL1tは紫色と定義されています(1tは10kNに相当)。JISでは安全係数も定義されており、6倍となっています。つまり、破断強度は6トン以上です。今回紹介したバスケットヒッチなどの安全性の高い方法で木に回せば6トン~12トン(60kN~120kN)という数値で切れるという数値で通常ならラインや他の道具より先に切れるケースはありません。ガースヒッチなら半分だから3トン(30kN)ですね。
安くてもJIS規格なら安心?かどうかは正直よくわからないのです。