6月に起きたイタリアでのハイラインでの死亡事故について原因が公表されているので簡単に紹介します。
ISAの報告の翻訳をベースにしています。
事故概要
2018年6月29日金曜日、イタリアのヴェネト州にてイタリア人ハイライナー(男性30歳)の死亡事故が起きました。
高所に張り渡したラインから落ちて死亡。
彼はハイライナー・設置者として経験豊富(とても)。
積極的にハイラインイベントにも関わっていた。
状況・原因
設置されたハイラインは長さ160m。
この長さを自在に歩く人はワールドクラスともいえるほどであり、一部のエキスパートに許されたような長さ。
メインラインを張り渡したあと、バックアップ(ロープかライン)をテープ留めする作業を行った。
160mのテープ留めを終えたあと、そのままアンカーから立って挑戦。
しかし、本来なら絶対に使わなければならないはずのリーシュ(命綱)を接続していなかった。
ラインスライダーを外してそのままアンカーから立ち上がってしまい、命綱がないまま落下して死亡。
リーシュセットはどこにあったのかというと、彼がテープ留めを始めた方のアンカーにぶら下がっていた。
以上が公開されている情報だ。
いつ、結び忘れていたか
リーシュをつけるべきタイミング。それはテープ留め作業を開始する時点。
テープ留め作業はラインスライダー(ハイスライドやハングオーバー)を使って行うが、これらの道具をハイラインで使用する際も専用のリーシュは必須である。
ラインスライダー系の道具はあくまでライン上を移動するための道具であり、これだけでは自己確保(セルフビレイ)には使えない。
ハングオーバーは自己確保に耐えうる構造や個人防護具(PPE:Personal Protective Equipment)に認定されているが、それでもこれ一つに命を預けることはできない。
気付かなかったのか?
160mのラインをテープ留めするには多くの時間がかかる(そのため、長いラインではあらかじめテープ留めしたラインを使うこともある)。彼はその長い時間リーシュを結び忘れたことに気づかなかった。正常なら、スライダーで移動する途中で気付くはずだ。
普通なら気付くはずだ。そう、普通なら。
スラックラインはハイラインに限らず設置中はワクワクドキドキ。早く歩きたいとの気持ちが湧いてくる。
その気持ちが優先して必要な準備を忘れてしまった。気付くはずの時間の余裕もあったはずなのに、気付かなかった。
気づいていたけど、忘れた可能性もある。
どうしたら防げる?
ラインに取り付く前(それがテープ留めでも)に仲間からリーシュその他のチェックしてもらう体制は必須。
どれだけ経験豊富でも「トライするのでチェックお願いします。」とのやり取りは行わなけばならない。
バディチェックという。
これを怠る原因は、焦り、緊張、無知、慣れ、豊富な経験、注意不足。ようするに誰にでも起こりうる。
さらに万全を期すには?
イヤホンで音楽を聴くのはやめる。
例えば、「おい!リーシュ忘れてるぞ!」との声が聞こえない。
完全に歩行に集中することはハイラインにはとても大事だが、仲間のその声が聞こえなかった場合のリスクを考えると避けるべき。
設置後すぐ歩き始めない。
バックアップを含め、ラインやコネクターの状況を一度しっかり歩く前に全部確認する。
初心者ラインでも、トリックラインでも、ロングラインでも、張り終わったら一度最終チェック。これは冷静になる機会でもある。
カラビナのゲートが開いてたら気付くはずだから閉まっているはず。
なんてのは何の意味も無い。
チェックした時はゲートが閉まっていたと断言できないなら、チェックしていないと同じ。
関わる人すべての批判的なチェック
どれだけ経験豊富でも。逆に初心者でも。全員の目と意見が必要。
ハイラインの死亡事故二例目
この死亡事故は事故は35年のハイラインの歴史の中で二例目だそうです。
おい!リーシュ忘れてるぞ!
とか、結び目が不十分だった。
のような例は複数事例があるそう。
ハイラインでの最大のバックアップは批判的な目でチェックしてくれるパートナー。
と、国際スラックライン連盟では注意喚起しています。
以上、ISAの翻訳ベースでお伝えしました。
フリーソロ?
命綱をつけないフリーソロというジャンルも確かにあります。
しかしながら、ごく一部の人しか挑戦しないのはもちろん、最高記録も45mほどだったと思います。
160mのラインで行うなど考えられません。