北九州市のなかむらさんか(産家医院)でのフリースタイル出産が楽しすぎて、もっと出産に立ち会いたくなった

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フリースタイルとはスラックラインでは歩行の枠から飛び出した自由なトリックラインのことをいいます。

ですが、今回はスラックラインとは関係ないお話です。スラックラインと無理やり関連づけるなら、出産は体力じゃないそうです。いかにリラックスできるか。つまり力を抜けるかということ。迷いや不安を取り去った状態で出産に望むことが大事らしい。そいう意味ではスラックラインとの共通点が無きにしも非ず。

ということでフリースタイルな出産に当時5歳の長男と立ち会った時の話です。

フリースタイル出産とは簡単に言うと、病院の分娩台ではなく自由な姿勢で行う出産のことを言います。実際には昔ながらの布団の上で好みの状態で行います。最近はこういうスタイルの出産が見直されています。

最初は助産院を探していたのですが、地理的な問題で良い所が無くて助産院と産婦人科病院の中間のような所を見つけました。そこがフリースタイル出産が可能な産婦人科だったのです。その病院はフリースタイル出産とは称していなかったのですが、あとでフリースタイル出産というらしいと知りました。それにスラックライン仲間もここで産んでいたみたいで、あとでこの病院の院長さんの話で盛り上がりましたヨ。

本当に素晴らしい出産でした。何より楽しい。もう一人!二人!と出産に立ち会いたいと思えるほど素晴らしい体験でした。今でも長男とまたなかむらさんちに遊びに行きたいと話しています。
出産は妻にとっては大変な事には変わりなかったでしょうが、少しでも楽にという意味ではこれ以上の場所は無かったはずです。
産婦人科を選ぶ際はぜひ分娩台ではない形態で出産できる病院をさがしてほしいなぁと思いました。

残念ながらなかむら産家は院長先生がお亡くなりになられたためもうありません。いつでも遊びに来てねと言われていたので、とても悲しいです。でも現在は助産師さんが助産院を立ち上げていらっしゃしいます。

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負けず嫌いの息子。いろいろ張り合ってきて、何に対しても自分が上だって主張。試しに、父さんの方が足が臭いと言うと、僕の方が臭いと張り合ってくる始末。年下の従妹とすごろくをしたときは、すごろくの意味を分かってない従妹の方が先にあがってしまって、ワナワナと震えて気絶するんじゃないかと思うくらいパニックになってた。そんだけ負けず嫌いの5才児。
そんな息子を交えて、2013年7月28日に二人目の出産のエピソード。

その病院は分娩台が嫌ということで、見つけてきた病院。自然なお産ができるんだそうだ。料理はおいしく、病室は和室で快適、そこで産んだ人の話では快適すぎて退院したくなくなるほど居心地がいいそう。家族も隣に布団敷いて泊まれるし、食事も頼めるらしいから、子連れにはうれしい環境。診察に一緒に行く限りは、普通の産婦人科って感じで特別変わりはなかった。

変わっているのに気付いたのは、お産をする部屋に案内された時だった。陣痛が来たときは自分は仕事をしていたので自分一人だけ遅れて病院へ行った。通された部屋は、6畳ぐらいの布団が敷かれた畳の部屋で、小さい機械が一つあるだけ。え、ここなに?普通の部屋じゃん。また後で移動するの?って聞くと「ここで生むんよ」と妻が言う。助産院というか、自宅出産っぽくて面白い。
自分が着いたころは陣痛の間隔が10分くらいで、まだ少し余裕があった。連れてきた息子はキョウリュウジャーの大きなおもちゃを二つ持ってきて、遊びに夢中。絵本も持ってきた。陣痛が来ると息子と二人で妻の腰をさすってあげる。子供の小さな手の方が気持ちいいらしい。たまに様子を見に助産婦さんが来るけど、まだノンビリ。布団があるので自分も妻と一緒に布団に入って休む。

妻が病院に来る前におにぎりを握ってれてたのでみんなで食べる。普通の病院なら、こんな時間はない。前回はひとりで分娩台に取り残されたらしい。この状態が不安ですごく嫌だったそうだ。今回は、畳の部屋の個室だから家族だんらんが過ごせる。これだけでも価値がある。

そうこうするうちに、陣痛の間隔が短くなる。時間を計るのは自分の役割だったけど、どんどん間隔が短くなってきた。助産師さんもそのころになると一緒にいてくれる。息子も交えて会話が楽しい。そしてどんどん間隔が短くなり、3分から1分へ。

妻も苦しくなり。唸ってる。息子の桂一の元気は相変わらず。子供なら怖くなるかもしれない母親の苦しそうな声にはまったく動じない。というか、子供がここにいていいの?とか思ったけどもう遅い。
全く想定していなかったけど、家族で立ち合い出産。

陣痛が本格的になる。妻も苦しそう。すると、桂一がそろそろズボン脱がせた方がいいんじゃないか、と助産師さんに言う。5才児のアドバイスに従い、みんなで妻のズボンを脱がせる。そしてもっと陣痛がひどくなる。お母さん、痛いの?と桂一が聞く、「痛い~」と苦しそうに妻が言う。僕が頭を打って怪我して病院で縫った時の方が痛かったよ、僕の方が勝ったって得意気。おいおい、陣痛にも張りあってるよここ子は。どんだけ負けず嫌いなんだ。
しかも、助産師さんが話に交じったから、また頭を縫った時の武勇伝を聞かされる。この話聞くの何度目だろう・・・

そんな話を聞かされているうちに、ますます妻が苦しそうになる。いよいよお産が始まる!すると、パンツ脱がせた方がいいよとまたもや5才児の息子が助産師さんにアドバイス。皆で腰浮かせてあげて助産師さんがパンツを脱がせる。こんな賢い子はいないと助産師さんに褒められる。そういえば、妻の妊娠に一番最初に気づいたのは、桂一だ。お母さんのおなかに赤ちゃんがいると言い当てた。親は二人ともまさかと思ったが、これが本当だった。そんな彼がズボンやパンツを脱がせるタイミングを知っていたのは当たり前のことかもしれない。

パンツも脱がせて準備万端。本格的に産まれそうな段階となる。妻は苦しくて自分に寄りすがるような感じ。吐き気があって、吐き始めたので自分は洗面器をもって合間にタオル洗ったりと忙しい。桂一はいつもはぐっすり寝ている夜10時なので、妻の苦しい声のすぐ隣で眠いと不機嫌になって横になっている。よく、こんなのとき寝れるよなぁと思っていたら、頭が出てきたと助産師さんの声。そしたら、ばっと起きて妻の下半身側へ移動。むっちゃ早い動きで、おめーさっきまで寝てたんじゃないのかよと呆れる。眠気を通り越したハイテンションな声で「お母さん、もう頭が見えたよ」と桂一が言う。すると妻はお言葉を聞いて涙。子供の言葉には嘘がない。いろいろあった不安も、子供の正直な声で吹き飛ぶ。

でも、自分はなんか違うと思ってた。頭が見えたとの声の時、助産師さんの表情が変わったのを感じた。ちょっと気になったけど、妻の安心した表情に気のせいかなと思った。後で知ったけど助産師さんの表情が変わったのは、旋回異常だったから。通常、赤ちゃんはお母さんの背中側に顔を向けて産まれるけど、今回はお腹側をむいてたそう。だから表情が変わった。でも旋回異常はこの病院で月に一人くらいあるので、特に心配する必要はないらしい。ただし、お母さんは傷みが激しいそうだ。

頭が出てきたら、もう「いきん」で産むだけ。だだし、妻はかなり痛いみたい。自分も下半身側の状況が気になるけど、向こう側に移動して覗き込むのが野次馬みたいで恥ずかすぃ。実際、二人の助産師さんの間であーだこーだ言ってる息子を見ていると、完全に野次馬というかなんというか。さすがに、あの場で親子で覗き込むのは絵的にオカシイ。

そしてついに、次男が産まれた。産まれたばかりの次男を取り上げたのは間違いなく5歳児の桂一だ。この瞬間長男となった桂一は、よくわからん踊りを踊る。踊りはイイにしても、顔が完全にふざけていて白目むいている。ついこの間、幼稚園で歌ってるとき一人だけ白目むいて歌ってたよね。笑いこらえるの大変だったんだよ。産まれたての次男はそのまま妻の胸の上へ!そして記念撮影。やったーとみんなで笑顔。一人は、白目だけどね。

しかし、まだお産は終わらない。まず、胎盤を出さないといけない。桂一が助産師さんが何かやってるのを見逃すわけがない。また下半身側に移動。桂一はいつもなら寝ている時間をとうに過ぎてしまってかなりハイテンションになっている。妻から出てきた何かを見て、お母さんから「ハム」が出てきたと桂一の声。笑ったけど「ハム」に突っ込む気力はなかった。

産まれたばかりの次男は妻の胸の上で、おっぱいに吸い付かせる。この病院ではへその緒を切るのは、おっぱいに30分くらい吸わせてからだそうだ。普通なら、生まれた瞬間に引き離されて、体を洗われる。しかし、ここでは体は洗わない。退院する前くらいまで、体は布でふくだけ。実際、赤ちゃんの体にはラードのような油がたくさんついている。話によるとこの油が赤ちゃんの体をいろんなものから守ってくれるらしく、なるべく残したほうがいいらしい。赤ちゃんをすぐにおっぱいに吸い付かせるのは、お母さんの体の菌を赤ちゃんに移すため。へその緒をすぐに切らないのは、胎盤やへその緒に残っている栄養を赤ちゃんに移すため。

産まれて喜んでる時に、この病院の先生が登場!先生はまず、桂一とハイタッチ。ハイテンションな人がもう一人いたよ~。先生は診察の時にも桂一の疑問にいろいろ答えてくれた。お腹の中の赤ちゃんは「うんち」するのかとか聞いてもちゃんと答えてくれた。

「ようこそ地球へ」と先生が赤ちゃんに声をかける。桂一には「地球の楽しさをおしえてあげてね」と。
この言葉、診察の時も言ってたし、他の家族にも言っているみたいだったけど、深い意味があるように思えた。胎盤とへその緒は、とても見た目が人の体の一部とは思えない。胎盤は宇宙船みたいな素材に見える。へその緒もなにか異質の素材に見える。どこか遠くの宇宙から舞い込んできた生命。だから「ようこそ地球へ」なんじゃないかと思った。

先生が妻の下半身側で何やら道具を出し始めた。縫合セットだ。出産時に切れたところを縫う。
何するん?と桂一が先生に聞く。切れたところを「縫う」んだよって先生が説明する。あーあ、先生がNGワード言っちゃたよ。また桂一が頭を縫ったことがあるという武勇伝を語り始める。そんなのとこ縫っても頭を縫った自分には勝てない。麻酔もやったし、血も俺の方が出ていたと得意気。まさか、一晩に二度もこの話聞かされるとは。

助産師さんも先生も部屋を出ていってくれて家族4人同じ布団で幸せな安堵感に浸る。妻の上には、まだへその緒と袋に入れられたハムがついている次男。泣きもしない。寝ぼけている表情。泣いたのは少しだけ。まだ、お腹の中にいるつもりなんだろう。体も洗われていないから、そんな錯覚をおぼえているんだと思う。本当に心の底から幸福感に包まれる。妻も同じ感覚を覚えたようだ。何を話したかは今では思い出せないけど、とにかくホンワカとした温かい感覚に包まれた。桂一は疲れて寝てしまった。この地球で今この場所だけが、異質な空間に思える。おそらく、宇宙船である胎盤がついた次男がいるからだろう。彼はまだ、本当にはこの地球の住人じゃない。中途半端な、虚ろな存在。でもそれが、この居心地のいい空間を作っているのを感じる。

30分と聞かされていたけど、1時間くらいして助産師さんが戻って来た。いよいよ、へその緒を切るらしい。しかも、切るのは夫である自分。そういえば、へその緒の斑模様が減っている。血が次男の方に吸い取られたのだろう。いざ切ろうとしても、へその緒はなかなか切れない。ハサミでグリグリしながらようやく切れた。なんか、宇宙船が次男を手放すのを抵抗しているように思えた。次男をこの地球の一員にしたのは自分。大丈夫だよこっちにきなよ。先に産まれたたくさんの仲間がいるよ。切れた瞬間、この異質な空間が収縮していく。完全に地球の空間に戻ってきたのだ。

地球の一員にするのは、現代では人間社会の渦に巻き込んでしまうのと同意義だ。人間社会という言葉は、不安を伴っているのが習わしかもしれない。でも、その時はそんな感じには思えなかった。何かわからないが、とても素晴らしい人間社会が待っているように感じた。あの、幸福感を感じあえたからかもしれない。あの感覚を思い出せば、渦には巻き込まれない気がする。幸いにもハムを見れば、その感覚が思い出される。

この世に生かされているすべての生命は、共通の仕合せ(しあわせ)から始まった。その仕合せの異空間の余韻は、すごくぼんやりと今も地球を包んでいる。
このことに気づかせてくれた家族みんなでの楽しい出産でしたとさ。